Abstract
In this paper, the application of
the
‘Minute Paper ‘ as an evaluation
technique
of an English reading course taught
by three
teachers is presented. The ‘Minute
Paper’,
consists of a brief multiple-choice
questionnaire,
based on models used by Tokai University
and Fukuoka Junior College (the Department
of Information and Management Science).
After
an analysis and discussion of overall
data,
it was decided that a survey on the
‘Minute
Paper‘ itself should also be conducted.
The validity of the ‘Minute Paper’
as a
fast feedback technique for course
improvement
was demonstrated by the students’
responses.
Finally after analyzing the data and
consulting
literature about classroom assessment
techniques
used in university and college classrooms
in the United States, two new versions
of
the ‘Minute Paper’ were proposed.
Key words: Course improvement, Minute
Paper,
Common course syllabus
1.はじめに
1997年度より筆者のうち英語担当教員3人が、従来の日本語を介した英文解釈から、直に英語のままでの英文理解を可能にするため、授業改善(英語)の一環として、実用英語
I (Reading:1年生対象、選択科目)を共通授業で実施している。本学に入学してくる学生は商業高校出身、工業高校出身、大学入学資格検定試験合格者などを含め、それぞれ異なる英語学習経歴をもっている。この授業は英語に対して苦手意識が強かったり、基本からやり直したいと思っていたり、得意な英語力をバネに国際社会での活躍に夢を膨らませるというように多様な先入観をもった学生を対象に、同一シラバス、テキストを使って進めるものである。
短大での第1セメスターに、それまでの英語に対する意識を大きく転換させるようなインパクトのある授業を目指す取り組みとして、多読法によるReading授業を行っている。本法の実施にあたっては特別予算を得て、300語から1600語以上までの難易度レベル別原書英語読本 (
Graded Readers )を順次購入し(現在約450冊)、6段階にレベル付けし配置している。授業では英文の読み方のコツを修得するようなテキストを選び、履修学生にはこの修得したコツを活用するように、Graded
Readers を学期中に15冊以上読むように指導した。Graded
Readersは複雑な英文を苦しみながら解釈するのではなく、レベルに合った本を手に多読する方法である。例えば基礎レベルではカラフルなイラストをヒントに、楽しく読みすすむうちに基礎的英語力が養成され、苦手の学生でも英語嫌いを克服する事が可能である。
学生間の学力格差が大きい場合、共通のテキスト使用は、通常避けることが多いが、このReading授業では、英語の習熟度に関わるようなcontent-based(内容重視)テキストでなく、学生が共通に不足している英文を抵抗なく読み進むためのスキル習得を目的とするテキストを選んだ。このテキスト(Basic
Reading Power by Beatrice S. Mikulecky)の構成や特徴、授業については前号紀要に報告した1)。
テキストとシラバスを共通にすると、他のクラスとの授業進度の調整がプレッシャーになることもあるが、学生間、教員間で授業情報交換のメリットがある。学生の状況、授業法や課題の出し方など様々なアイディア交換が可能になる。また特別予算でのGraded
Readersの採用は共通の授業を行うことではじめて実現可能であり、読本の学科管理などといった新しい試みには複数の教員間協力が欠かせない。
以上のような試みは教員同士の経験や判断に基づく工夫を重ねたものであるが、授業の主体である学生からの声を反映させる必要があることを感じていた。1998年秋学期に、本学、情報処理学科の一部の科目で、学生が毎時限の授業を短時間で評価するMinute
Paperが実施された2)。Minute Paperは、University
of California Berkeley の物理学の教授が行っていたもので、1分間で授業のポイントと疑問点を書かせる方法である。日本ではこれに簡単な評価を加えたものが用いられている3)。Minute
Paperはその都度の情況を基に授業の改善ができるので、大きな効果を期待してReading授業に導入した。
2.Minute Paperの導入
学期末にすべての授業科目について実施される「学生による授業評価」記入に際して、以前、ある学生から「これで授業が変わるのですか」という声があった。本学全体で現在行われている授業評価は、講義科目、実習科目、ゼミ科目別に作成された東海大学のフォーム4)を利用して、学期末に、授業や教員についての評価を5段階のポイントで評価するものである。評価結果は、総合的な観点から分析されて教授会に報告される一方、担当教員には個別科目についての結果が渡され、教員の判断によりその後の授業改善に役立てられる仕組みになっている。しかしながら1セメスター15回、あるいは科目によって30回近くに及ぶ授業の評価を、学期末に1回行うだけで十分とするには無理がある。 矢田 公美
Reading 授業へのMinute Paper導入にあたっては、前年度、情報処理学科で使用したものを参考に、独自のMinute
Paperを考案した。情報処理学科のMinute Paperは用紙を使ったものではなかった。また、Web
上のMinute Paperにコンピュータ操作で入力する記入法のため、記入学生が特定された。Reading
授業のMinute PaperはA5サイズの用紙記入式で、学生が記入した用紙を回収後、毎回各教員が内容を読みながら、表計算ソフトの集計表に入力する方式をとった。学生が自由に意見を書けるように、このMinute
Paperは無記名にした。
2.1Minute Paperの質問項目について
問1. (今日の)授業の全体的雰囲気は
(a. よい b. 普通 c. 悪い)
最初に授業の雰囲気に対する全体的印象、教員やクラスメートを含めた雰囲気についてたずねた。表計算プログラムの表には、結果の入力に際し、aを3、bを2、cを1のように数字で打ち込んだ。
問2. あなたの授業態度は
(a. よい b. 普通 c. 悪い)
(理由:1.私語 2.遅刻 3.携帯-on
4.テキスト忘れ 5.居眠り 6.その他)
この問いは、授業への出席に際して、学生側の自覚を促すことも大切だと考えて設定した。学生が遅刻した場合この項には当然、c. 悪い(1と入力)、理由2(理由2の項に1と入力)のように打ち込んだ。
問3. 授業内容は理解できましたか
(a. そう思う b. まあまあ c.
そう思わない)
これは学生各自にその日の授業についての自分の理解度を判断させるものである。
問4. 学習内容で興味の持てたのは
(a. Reading b. Vocabulary
c. Comprehension d. Thinking
Skills)
この授業では毎回4分野からの学習を進めるため、その日どの分野の学習に興味を持ったかを調べた。
問5. 学習内容は量的に
(a.ちょうどよいb.多すぎるc.少なすぎる)
この授業は多読法を取り入れているため、テキストの読書量も従来の英語授業より多い。当初は「多すぎる」と感じることが予想された。学生がテクニックを習得すれば「ちょうどよい」が増えてくるものと思われた。
問6. 学習内容の説明は
(a. よい b. 普通 c. 悪い)
率直に、学生が授業をわかりやすいと感じたかどうかを問う設問である。
問7. 今日の授業を総合的に評価して下さい。 (←よい 5 4 3 2 1→わるい)
参考にした東海大学や本学情報処理学科のMinute
Paperでは双方とも総合評価は10点法となっていたが、回答を簡単にするため5点法にした。
問8. 今日の授業についてのコメントがあれば自由に書いて下さい。
無記名のため、学生は気兼ねなく生の声を寄せることができるものと考えた。
Minute Paperはそもそも1分間くらいで簡単に記入してもらうのが趣旨と考え、短時間回答を目指し、質問項目も情報処理学科のMinute
Paper 15項目を8項目に簡略化した。
3. Minute Paperの結果分析
Reading の授業は、1999年度春学期は火曜日第1時限目にA(履修者数約36名)、
B(約23名)、C(約23名)の3つにクラス分けして行われた。観光文化コース1、2クラスをアメリカ人で、日本語が堪能な教員Aが担当した。観光文化コース3と国際コミュニケーションコース4の混合クラスを日本人教員B、国際コミュニケーション5、6のクラスを日本人教員Cが担当した。全体的雰囲気、学生の授業態度、授業の理解度など、いずれも外国人教員と日本人教員とに差は認められなかったが、教員個人間に違いが認められた。全体的にBクラスでは「よい」「そう思う」が伸びず、総じて「普通」「まあまあ」が多かった。Minute
Paper実施には、配布から記入、回収まで数分を要した。75分授業、15分休憩という授業形態で、A、CクラスではMinute
Paperを授業終了前に実施し、BクラスではMinute
Paperを授業終了後に実施した。
Minute Paperは、最初回のオリエンテーション、中間・期末テストをのぞいた学期中約12回実施した。
通常、授業内容の説明がよければ、わかる授業であると考えられている。図1,
図2, 図3は、問3の「授業がよく理解できたか」について「そう思う」、問6の「学習内容の説明」が「よい」と答えた数値を相関させて、その推移を折れ線グラフにしたものである。内容の説明は「よい」としながら、授業で理解度が必ずしも同様に推移していないこともある。学生が自分の理解度を控えめに評価しているのか、何をもって理解とするかを判断しかねているのかもしれない。
6月15日、「学習内容の説明がよい」が76.7%であったAクラスでは、「授業内容をよく理解した」が53.3%となっている。この日、Aクラスで学生がもっとも興味を示したVocabularyのジャンルで、Samiというスウェーデンの1部族名が出てきた。この教員は少数民族について関心が強いので、その民族についての説明を加えた。学生は民族文化についてのプラスアルファの知識に好感を持ったようだ。またOmanという国名も出てきたので、アラビア半島のどのあたりに位置するかを黒板に図解した。
6月22日、「学習内容の説明がよい」が82.6%であったCクラスで、学生が「興味を持てた学習内容」としたジャンルはThinking
Skills を選んだものが43.5%あった。Thinking
Skillsは2〜3の文に連続する英文の後半を、文脈から判断して4択の中から選ぶという、英語で文末を考える訓練である。Cクラスでは平均的にThinking
Skillsのパーセンテージが他のクラスに比べて高く、2〜10倍なることもあった。CクラスでのThinking
Skills教授法を詳しく見ると、答えを探すだけでなく、文の自然な読み方を練習をしたり、関連した文化的情報を加えるなど毎回変化を持たせる工夫をしていた。学生はゲーム感覚でこの練習をしたようだ。
Bクラス6月29日の突出は台風の影響で当日の出席者が10名以下で、出席者はいずれも学習意欲の高い学生であった。なお、Aクラスではこの日、Minute
Paperを実施していない。
図4はReading, Vocabulary, Comprehension,
Thinking Skills の4分野への興味を延べ人数で調べたものである。Aクラスでは語彙の不足しがちな学生の
Reading 理解を助けるため、教員が声音を変えたり、身振り手振りでストーリーを演じるようにしていた。幼い子どもに本への興味を持たせるために、子ども図書館活動などで、読み聞かせを行うが、映像時代の学生が英語の本に親しむにあたっても、こうした読み聞かせは効果的方法のようだ。
Bクラスは、Readingに重点を置いた授業をしていたが、学生はMinute
Paperの意見欄で内容理解のため日本語訳を希望していた。この教員はその期待にそのまま応じるのではなく、語彙を広範に説明することで日本語訳に代えた。その結果このクラスでは教員の意図したReadingよりVocabulary
のジャンルに興味を示した数値が相対的に高くなった。また、Bクラスだけで学生にReadingの音読練習をさせた。学生は音読を苦にした上、音読しながらの内容理解を同時進行させかねたようで、理解度は毎回ほとんどが「まあまあ」に留まった。
多読を目指す授業で「学習内容」は、例えば、読み物が200語程度から500語程度までと、量的に回を追うたび増えていったが、図5は、学生がそれをどう感じたかの推移を表している。「ちょうどよい」の平均数値が大きくは変動していないのは次第に慣れてきたためとも考えられる。
図6は、3クラスの授業の総合評価(5段階)の平均値の推移をみたものである。
この授業では共通の問題で、中間テストと期末テストを実施した。
3クラスの中間テストの平均点は
A 73.7(最高100最低42)、B 72.8(最高100最低34)、C 67.0(最高100最低23)
期末テストの平均点は
A 74.8(最高100最低32)、B 74.1(最高98
最低26)、C 61.0(最高98最低10)であった。総合評価が比較的高く推移していたCクラスの平均点を、低く推移していたBクラスがしのいでいる。テストだけで学生の学力を正確に計ることはできないが、学生が勉強する動機には、よい、分かる授業というだけでなく、まだよく分かっていないから自分で勉強しなければ、という危機感もあるのかもしれない。
4. Minute Paper についてのアンケート
学期末テストの日にMinute Paper自体についてのアンケート調査を実施した。
◎図7は、「Minute Paperは授業の改善に役立つかどうか」について調べたものである。「そう思う」「まあまあ」を合わせると3つのクラスとも90%を越えるが、「そう思う」に絞ると、やはりMinute
Paperを授業の終了前に時間をとって実施したA、Cクラスと、終了後、休憩時間に実施したBクラスでは、Bで評価が6~8ポイント低くなった。Minute
Paperを授業終了後に実施したことが、休憩時間の短縮になったためMinute
Paperに若干消極的になったとも考えられる。Minute
Paperをはっきり授業の一環とする位置づけが必要である。
◎「Minute Paper実施の頻度」については、(図8)「週1回」の現状維持意見を筆頭に、「月1回」、「隔週1回」実施、「なし」、と続いた。教員サイドでは、毎回同じMinute
Paper記入をさせるうちに、学生が記入に際して、機械的に反応するようになり、多少マンネリ化してきた面もあったと反省した。
◎ Minute Paperと学期末の「学生による授業評価」との関連については、「両方を実施」、「授業評価のみ実施」、「Minute
Paperのみ実施」の順となった。(図9)Minute
Paperは試験的実施であったが、学生はMinute
Paperに授業改善の役割を評価しているといえる。
◎「Minute Paperは自分の授業態度改善に役立つと思いますか」は「そう思う」「まあまあ」を合わせると83.1%となり、学生自身の授業態度改善にもある程度は役立つようである。授業は学生と教師双方が創り出すものであり、学生の受講態度の善し悪しも重視すべき点である。
◎参考までに他の教科でMinute Paperのようなものがあったらよいかどうかを調べた。「あった方がよい」としたものは44.6%に留まった。Minute
Paperの意義を認めながらも、一方で毎時限、すべての科目で、Minute
Paperに記入するのは煩雑という判断があるかもしれない。図10は、Minute
Paperがあったらよいとされた科目である。
Minute Paperを記名にするか、無記名にするかには一長一短が考えられる。記名にすれば、Minute
Paperは教師と個別の学生との対話手段になる5)。誰がどんな意見を持ち、理解の程度などはどのくらいか、つまずいている学生は誰か、などと把握できる。他面、学生の方で成績評価を意識して、教師におもねる形の意見になってしまうことも考えられる。
アンケートの追加項目として、BクラスでMinute
Paperへの記名、無記名について意見を調べたところ、23名中、記名を希望する4,無記名を希望12、無回答7であった。無記名希望は、記名希望の3倍であった。無回答は一概に言えないということだろう。
5. オリジナルMinute Paperの紹介と工夫
東海大学にMinute PaperがFaculty Developmentの一環として導入された際、Universityof California Berkeley 校によるABCユs of Teaching with Excellence からのヒントがあったことから、その論文集の監修にあたったBarbara Gross Davis教授の著書Tools for Teachingを参考に、Minute
Paperの原点、ルーツを探ってみた。
広く実施されている学期末の授業評価(end-of-course
questionnaire)とMinute Paperのような学期中のフィードバック(fast
feedback)を比べて、Davis教授らは授業改善のためにはむしろfast
feedbackを勧めている。Minute Paperには、すぐに改善できる要望があった場合、間に合って学生に還元できるという強みがある。
Minute Papers provide immediate mid-course
feedback to teachers and allow quick
response
to students.6)
The most widely used method for evaluating
teaching is the end-of-course questionnaire.
The questionnaires arrive too late,
however,
to benefit the students doing the evaluation.
…Much more effective are fast feedback
activities
that take place during the semester.
Informal
sampling of studentsユ comprehension
of the
subject matter will enable you to gauge
how
and what students are learning. Faculty
who
use such techniques report learning
more
about ways to improve their courses
than
they have ever discovered from end-of-term
student rating forms.7)
ここに述べられている"fast feedback"
は決まったフォームを使うというより、気軽に図書のインデックスカードの余分などを利用して、適当な時期に、学生の理解度を調べたり、学習の進捗状況を確かめるもののようである。質問項目は、単刀直入に「うまくいってること」「変えてほしいこと」「要望」をたずねるようだ。
Pass out 3"× 5" cards
to students
and ask them to respond anonymously.
… You
can pose general questions about what
is
going well in the course and what needs
to
be improved or changed. "What
do you
want more of? Less of?" "How
are
you finding the course?" "Any
suggestions
for improving the course?" "Any
problems?"8)
4~6問の簡単な選択肢方式で授業の難易度、課題の量と質、授業時間の使い方、予習、授業の進度などについてたずねるものもある。
During the last few minutes of class,
distribute
a short, simple questionnaire to students
or to a random sample of students in
a large
lecture class. Limit the questionnaire
to
four to six short-answer or multiple-choice
questions. … You might ask about the
level
of difficulty of course content, the
quality
and quantity of assignments, the use
of class
time, the nature of student preparation
outside
of class, or the pace of the class.9)
汎用できるMinute Paper として紹介されている例に、その日習った中で「一番大事なこと」(significant
thing)と「気がかりな疑問」(question
uppermost
in your mind at the end of todayユs
class)を無記名でたずねるものもある。
Ask students to write a “[M]inute
[P]aper.”
Davis, Wood, and Wilson (1983) describe
a
Berkeley physics professor who, in
the late
1970s, developed this technique, which
can
be used in any discipline. At the end
of
a class period, ask your students to
write
for a minute or two on the following
two
questions: "What is the most significant
thing you learned today?" and
"What
question is uppermost in your mind
at the
end of todayユs class?" The resulting
minute papers, submitted anonymously,
will
enable you to evaluate how well you
have
conveyed the material and how to structure
topics for the next class meeting.
10)
さらに、学生用語でさりげなく、その日の授業からの“得物”(
get what you came for )や“はっきりと分からない部分”(muddiest
point )などをたずねて、その原因を自分で判断させるものもある。
1. Did you get what you came for today?
a. If yes, what did you get?
b. If no, what was missing?
c. If not sure, please explain.
2. What was the muddiest point remaining
at the end of todayユs class?
3. What percent of mud was due to:
a. Unclear presentation by instructor?
b. Lack of opportunity to ask questions?
c. Your lack of preparation?
d. Your lack of participation in
class
discussion?
e. Other11)
こうしたモデルを参考に、学生の意見を採り入れながら、改訂版
Minute Paperを作ってみることにした。
新学期の比較的初期(3~4週目)に実施して学生の反応を見るための、記述式Minute
Paper(1案)と、これまで使用してきたMinute
Paperをベースにした随時実施用の、改訂版(2案)を作成した。数人の学生から、質問項目の言葉づかいなどをチェックしてもらい、学生の用語感覚そぐわない表現は修正した。
「今日の授業で得られたもの」→「きょうの授業でよく分かったこと(大事だと思った)」
「もっと知りたいことがあるとしたら、どういうことですか」→「授業に取り入れてほしいこと」
授業について「退屈だ」→「つまらない」
「学生に公平に接している」→「学生一人一人に平等に接している」
「学生の参加を促している」→「質問しやすい雰囲気がある」
学生が自らの授業態度について反省する項目は、彼らに罪悪感の欠如している遅刻や居眠りへの注意を喚起したいと思い、引き続き加えた。(資料1)
教育に評価は付き物で、授業評価についても、成績評価の感覚で点数評価を取り入れたものがほとんどである。しかしながら、授業評価の目的は、授業評定とか勤務評定というより、授業改善にある。学生が授業につけた点数に拘りすぎることなく、授業内容が学生に適切であるかどうか、理解されているかどうか、分っていないとすれれば、何が、どうして理解されなかったのか。教師と学生の期待にずれがあるのならば、どうしてほしいのか、といった意見表示が明確になるようにしなければならない。出された要望から変更可能なものは、早い時期に軌道修正することが望ましい。個別の教師が、自主的にインフォーマルなフィードバックを求める形の、記述式Minute
Paper(1案)はそうした需要に備えて考案した。
Minute Paperを実施するにあたっての留意点としては、どの時期に、何を調べるために、どういうフォームがふさわしいか、また質問項目に学生が的確に答えられるよう定期的に推敲を重ねる必要がある。当初Minute
Paperは1分ほどで書ける簡単なものを想定していたが、所要時間で数分(
a few minutes )といわれている時間は5~10分という記述もあった。教育(education)は
知識を「そそぎ込む」( instruction )ではなく、学生の中から「引き出すもの」といわれるが、思考力、判断力の養成はこういう活動を通して培われるものかもしれない。
Decide first what you want to focus
on
and, as a consequence, when to administer
the Minute Paper. If you want to focus
on
students’ understanding of a lecture,
the
last few minutes of class may be the
best
time. …
◎Using the two basic questions …write
Minute
Paper prompts that fit your course
and students.
Try out your Minute Paper on a colleague
or teaching assistant before using
it in
class. …
◎Plan to set aside five to ten minutes
of
your next class to use the technique,
as
well as time later to discuss the results.
◎Unless there is a very good reason
to know
who wrote what, direct students to
leave
their names off the papers or cards.
◎Let the students know how much time
they
will have (two or five minutes per
question
is usually enough), and when they can
expect
your feedback.12)
改訂Minute Paperを作成するにあたっては、提案にもあるように複数の学生に記述式、選択方式の両案についても意見を求めた。記述式Minute
Paperについては、記入に時間がかかるという意見であった。提案にも一問につき2~5分の所要時間とある。Minute
Paperを授業改善の切り札として重視するなら、授業中に書かせる時間を確保しなければならない。
今回のアンケートでは、Minute Paperの毎回実施は支持されていたが、Thomas
A. Angelo 氏らによれば、Minute Paperの使いすぎや、機械的運用にたいする批判もある。マンネリに陥ることなく、結果を過信することなく、初心に戻り原点にかえって、見直す努力も求められている。
◎If Minute Papers are overused or
poorly
used, students will begin to view the
technique
as a gimmick or pro forma exercise
in polling.
◎It is more difficult than it may
seem to
prepare questions that can be immediately
and clearly comprehended and quickly
answered.13)
6.むすび
学期末の学生による授業評価の結果を生かした授業改善に平行して、他者評価の導入も一部で可能になった。このたびMinute
Paperを共同で実施したことにより、実質的に教員相互の他者評価を行うことができた。共通の授業内容も個人のアイディアとパフォーマンスで、より魅力あるものに仕立てることができることが分かった。学習内容にリンクした情報を提供することによって学生の興味を引き出したり、言葉での説明にとどまらず、演技や小道具をもって情況理解を助けるなど、学生の苦手意識克服にむけて各自がノウハウを交換し、自己研鑽することができた。
授業内容については、学生が勇気を出して質問することが稀にあるが、授業改善の要望などを教師に伝えるようなケースはほとんど考えられない。陰で不平不満を募らせ、愚痴るくらいが関の山であろう。教師もまた、反応の少ない授業で、学生の気持ちや理解度を測りかね、不本意ながら、憶測に基づく授業をしているのが現状かもしれない。
この度、共通の教科を選んでMinute Paperを実施し、学期中自分の授業に評価を受けることにより、毎回の授業に緊張感を感じた。さらに、自分の授業を客観視し、学生の関心を高めるヒントを得たことは意義のある体験となった。今後もMinute
Paperを使って、試行錯誤しながら、授業改善に努めるとともに、記述式、選択式の改訂版Minute
Paperにも推敲を重ね、他の授業科目にも採用されるようなMinute
Paperを開発することの必要性を感じた。
本学の学生は自分の意見をあまり発表しないため、Minute
Paperという形式であっても「今日の学習の重点」や「自分が把握しきれていない点」などについて記述することは、十分な教育的効果があるとみることができよう。学生からのフィードバック、率直な意見を得ることは単に教える側の授業法改善に資するばかりでなく、学生自身の自己分析、自己啓発ともなる。情報公開の時代にあって、授業は秘密であってはならない。学生からの小さなフィードバックや相互評価は今後の教育の方向性を示唆している。Minute
Paperという学生と教員の相互作用は世代間のギャップを埋め、本音を発信できる次世代日本人形成の第一歩でもある。
注
1) 矢田公美、岡嵜八重子、吉岡メリー:自主読書を勧める試み:自己教育力を培う多読法,
東海大学短期大学紀要,32号(pp.) 23-29,
1998
2)大塚一徳、八尋剛規、光澤瞬明:コンピュータ実習授業におけるリアルタイム授業評価システムの開発と効果:第7回情報教育方法研究発表会資料(pp.)
38-39,1999
3)香取草之助:Minute Paper:授業をどうする!:東海大学出版会 (pp.)128-140,
1983
4) 安岡高志、吉川政夫、高野二郎、峰崎俊哉、成嶋弘、光澤舜明、道下忠行、香取草之助:「学生による講義評価」:一般教育学会誌第11巻第1号,
(pp.) 56-59, 1989
5) 安岡高志、及川義道、吉川政夫、斉藤章、高野二郎、光澤瞬明、香取草之助:
Minute Paper:東海大学紀要 教育研究所 教育工学部門 (第4号)(p.)
41, 1991
6) Thomas A. Angelo, K. Patricia Cross:
Classroom Assessment Techniques: A handbook
for college teachers, Jossey-Bass Publishers,
(p.) 152, 1993
7) Barbara Gross Davis: Tools for Teaching,
Jossey-Bass Publishers, (p.)345 ,1993
8)同上, (p.) 346
9) 同上, (p.) 346
10) 同上, (pp.) 349-350
11) 同上, (p.) 350
12) Thomas A. Angelo, K. Patricia Cross:
Classroom Assessment Techniques: A handbook
for college teachers, Jossey-Bass Publishers,
(pp.)151-152, 1993
13) 同上, (p.) 153
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